あの夏を生きた君へ




「別に!怖くないし!」




考えないようにして、リュックサックを広げてさっき買ったおにぎりを取り出す。



ふと、悠を思い出した。

それから愛美を。


悠は結局誰とお祭りに行ったんだろう。
サッカー部の人たちかな。

愛美は美季たちと楽しんでるかな。
あたしのことなんて、考えないよね。


お母さんはパートの夜勤。
お父さんは馴染みの居酒屋。



あたしは、突如として虚しくなる。



リュックサックの中で、潰れてしまったおにぎり。

それを一口頬張って、無意味に泣きたくなった。




「ちづ!」


「は!?」

何事かと思った。
突然、彼があたしに迫ってきたのだ。


「な、な、な!!」

地面に押し倒される寸前の状況にパニックになる。


「ちづ!それ!」


「何ッ!?」


顔が近い!顔が近い!顔が近い!
心臓が痛い。息が出来ない。

このままじゃ…。



その時、脳裏を過ったのは悠と教室でさせられたキスだった。

唇が触れたときの生々しい感触。温度。


カァッと顔が熱くなる。





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