あの夏を生きた君へ
力の限り叫ぶと、もう何も残ってなかった。
あたしは気が抜けて、座り込んで肩で息をする。
そんなあたしに降ってきた彼の声は、不思議なくらい優しかった。
「…なぁ、ちづ。」
「…………。」
「温かい飯が食える、綺麗な服を着られる、家族がいて…帰る場所がある。
それが、どれほど幸せなことだか分かるか?」
あたしは顔を上げる。
彼は穏やかな表情だ。
けど、彼の綺麗な瞳は泣いているように見えた。
あたしには、彼が言った言葉の意味がよく分からない。
すると、彼は街の夜景を眺めながら、ゆっくりと語りだした。
それは、あたしがこの世界に生まれる前。
彼が――ばあちゃんが懸命に生きた時代の話。