あの夏を生きた君へ
「明子、幸生、小夜子ちゃん。この木のことは誰にも言ったらいけないよ。」
「どうして?」
兄はそっと花を見上げながら言いました。
「この木がここにあることを知られたら、この木はきっと酷い目に遭わされる。」
「え!?」
「だから誰にも言うな?約束だ。」
私には兄の言っていることがよく分かりません。
まだ7歳の小夜子ちゃんには、もっと分からなかったことでしょう。
でも、幸生くんのほうを見ると、幸生くんには兄の言葉の意味が分かっているようでした。
「この絵も…幸生、済まない。」
兄は辛そうに言うと、絵を破ろうとします。
「待って!」
あたしは慌てて言いました。
だって、その絵は幸生くんが私のために描いてくれたものだったのです。
花がとても綺麗だから。
私が「描いてほしい」、と言ったのです。
「明子…。」
兄は私を諭すように呟きました。