あの夏を生きた君へ
すると、それまで黙っていた幸生くんが言いました。
「僕が捨てます。僕が描いたから。」
「幸生くん…。」
どうして、あんなに綺麗な絵を捨てなければならないのか。
私には全く分かりませんでした。
「ちゃんと破いて、見つからないように捨てます。」
悲しくて悲しくて堪りません。
幸生くんはせっかく描いた絵をぐしゃぐしゃに丸めました。
私は泣きたくなります。
兄のことが理解できず、幸生くんの気持ちを考えると胸が痛いのです。
口を結んで俯く私を見ていた兄は、仕方ないなぁとでも言うように溜め息を吐きました。
「明子、幸生と二人で写真撮るか?」
「え!」
「一緒に撮ったことなかっただろう?どうせなら、この木の前でさ。」
「…いいの?」
「その代わり、この木のこと、写真のことも誰にも言わないこと。二度とここには来ないこと。
約束できるか?」
「うん!」
返事をすると、兄は私の頭を大きな手で撫でてくれました。