あの夏を生きた君へ






1941(昭和16)年から始まった大東亜戦争(※太平洋戦争)。



働き盛りの男の人は次々と兵隊にとられていきました。

幸生くんのお父さんも、戦地へ行ったきりです。






私の父は、私がまだ幼い頃に病気で亡くなり、母は父が残した薬局を一人で切り盛りしながら家を守ってきました。



逞しく大らかで、いつも気丈な母。

でも、この時の母は違いました。




「お国のため立派に死ぬ覚悟です。」


凛々しい声ではっきりと言った兄。


すると、響き渡ったのは、
バチィーン!!、という音です。



怖い顔をした母が兄の頬を殴っていました。


「私はっ!私はねっ!!戦争なんかでアンタを死なせるために生んだんじゃないよっ!!」

母はボロボロと涙を零しながら、物凄い剣幕で言いました。



私は、慌てて開きっぱなしの窓をピシャリと閉めます。

もしも誰かが聞いていたら非国民(※軍や国の政策に協力しない人を非難して使っていた言葉)だと言われてしまうからです。





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