あの夏を生きた君へ
「戦争なんかで死なせるために!ここまで大きくしたんじゃない!!」
母は泣きながら、兄の手をしっかりと握りました。
そして、兄に言い聞かせるように、
「生きて帰ってきなさい。」
と、何度も何度も言います。
「死んだらお仕舞い。お仕舞いなの!生きて帰ってきなさい!!っ…親よりッ先に死ぬなんて言うんじゃないよ…。」
兄の胸を叩き、兄の身体にしがみつく母。
兄も、私も、泣いていました。
兄は写真館で働いていました。
父が早くに亡くなっているせいか、歳が離れた妹だからなのか、いつも私の心配ばかりしていました。
兄だって、立派に死んでくる、なんて本当は思っていなかったはずです。
兄の目から流れる大粒の涙が、それを物語っているようでした。
「っ明子…っ。」
兄に呼ばれた途端、堪えきれずに私も兄にしがみつきました。
「お兄、ちゃ…っ。」
私たちは、家族三人身を寄せあって泣きました。