あの夏を生きた君へ
― 4 ―
それは、午前二時を過ぎた頃だったでしょうか。
今夜も空襲警報が鳴りました。
私はその怪音で目を覚ますと、ぼんやりとした頭に慌てて防空頭巾(※中に綿を詰めて作った布製の頭巾)を被ります。
「明子!いつもと違うの!急いで!」
血相を変えた母に急かされながら、二人で家を飛び出しました。
外に出て私の目に映ったのは、真っ赤な炎の海でした。
逃げ惑う人々、黒煙が上がり、空にはB29(※重爆撃機、大量の爆弾を搭載して長距離を飛べた)の群れが飛んでいます。
ついに、この町にも…焼夷弾(※小型爆弾、高熱で燃焼し広い範囲を焼いて破壊する)が落とされたのです。
手の平に嫌な汗をかいている私の手を、母がぎゅっと握ります。
私たちは防空壕まで必死の思いで走りました。
私は、悪い夢を見ているような気分でした。
現実でなく、これが本当に夢だったならどんなに良かったことか。
真夜中だというのに、空も、地上も、不気味なほど赤いのです。
『死』の恐怖、それをひしひしと感じました。