あの夏を生きた君へ
だらだらと流れる血が、ポタリ、ポタリと落ちて地面を染めていきます。
その光景を呆然と眺めていると、とても強い力で腕を引っ張られました。
踞っていた私が顔を上げると、そこに立っていたのは幸生くんでした。
息を切らしながら、
「明子!諦めるな!!」
と、大きな声で言います。
「…その怪我!?」
私の頭から流れる血を見て、幸生くんは悲しそうな、辛そうな表情です。
幸生くんは、自分の防空頭巾を私の頭に押し当てました。
「今はそれしかないから。」
幸生くんの姿を見て、声を聞いて、私は安心してしまい、ぼろぼろと泣きだしてしまいます。
「立てるか?」
そう言って、差し出された手。
「うん。」
全てを飲み込もうとする炎に囲まれながら、私はしっかりと幸生くんの手を握りました。
「…お母さんたちは?」
幸生くんは首を横に振ります。
「分からない。…とにかく行こう。川へ行けば水がある。助かるかもしれない。」