あの夏を生きた君へ
幸生くんのお母さんは、トラックまで駆け寄りました。
「幸生…幸生…。」
まるでうわごとのように繰り返しながら、幸生くんの顔や肩や腕に触れていきます。
そして、小刻みに震える身体で、縋りつくように幸生くんに覆いかぶさりました。
「何で…こんなことに…。」
私の母は涙を流しながら言いました。
私はふらふらとした足取りで、幸生くんのもとへ歩いていきました。
服は焼け、焦げ臭いだけではない酷い匂いがしています。
そっと、指先に触れてみました。
何の…何の温度もありません。
幸生くんは、もう空っぽなんだと思いました。
まるで眠っているかのように、穏やかな顔をした幸生くん。
あの綺麗な瞳に出会えることは、もう二度とないのです。
そして、私の頬を涙が伝っていきました。