あの夏を生きた君へ
私と母はその後、慣れ親しんだ町へ戻りました。
食べていくことで精一杯の厳しい暮らしでしたが、灯火管制がなくなり夜は明るくなりました。
空襲に怯えることもなくなったのです。
月日が経ち、私は食品会社で事務の仕事を始めました。
お見合いで知り合った方と結婚して、五人の娘たちにも恵まれました。
夫は警察官で、無口な人でしたが優しい人でした。
娘たちも健やかに育ち、皆結婚して家を出ていきました。
振り返ってみると、私はとても幸せな人生だったと思います。
苦しかったことも、辛かったことも過ぎてしまえば、さらさらと鳴る砂のような思い出に変わっていました。