あの夏を生きた君へ
「もう懲り懲りだ。あんなことを繰り返したら、人間は今度こそお仕舞いだ。」
彼が呟く。
あたしは食べる物に困ったことも、着る物に困ったこともない。
住む家に困ったことも、大好きな人が亡くなったこともない。
ただ、毎日退屈で、うまくいかないことばっかで、いつもイライラしてて……それだけ。
嫌がらせとか、人間関係とか…本当それだけだ。
家は貧乏だけどお父さんもお母さんもいて、
一人ぼっちだなんて思うけど本当はそうでもなくて。
あたしには、ばあちゃんもいた。
教室には悠がいて、ウザイと思うこともあるけど結局いつも味方でいてくれる。
あたしは、自分で勝手に遠ざけて見ないようにしてたんだ…。
その時、いくつもの花火が、
ドドンッ!ドドンッ!ドッ!ドッ!
と、連続して上がった。
「花火の音を聞くと空襲を思い出すよ。」
彼が言って、あたしはその横顔を見つめた。
すると、ふっとあたしに笑いかける。
「なんてな。」
「…笑えないよ。」
目を逸らすと、彼はとても本当とは思えないくらい穏やかな声で、「そうか」と言う。