あの夏を生きた君へ
「…それに、最近ばあちゃんボーッとしてることが多いのよ。歳だしねぇ…。
ちづが行けば喜ぶでしょ。」
「ボーッとしてる?そう?夏バテじゃん?」
お母さんは、
「だと良いんだけどねぇ。」
と、呟いた。
あたしは自分の部屋で着替えると、言われたとおりからあげを持ってサンダルを履く。
外の暑さを想像すると気が滅入るから、もう考えないようにした。
出かけようとするあたしをお母さんが呼び止める。
「暑いから被っていきな。」
と言って、お母さんはあたしに水色の帽子を被せた。
つい今、暑さを考えないようにしたところなのに“暑いから”とかウザイ。
苛立ちがまた燃え上がって、あたしは吐きすてるように言った。
「ダサッ!」
頭にのった帽子を床に叩きつけて、お母さんの顔も見ずに家を飛び出した。