あの夏を生きた君へ
神社の裏へ回り、あたしは鬱蒼とした森へ飛び込んだ。
そこは、もう道なんて呼べるものはない。
生い茂る草木に行く手を阻まれながらも、とにかく前へ進んだ。
懐中電灯の光と月明かりを頼りに。
日本から桜を贈り、アメリカからハナミズキが贈られた。
それは、『平和の象徴』と言ってもいいのかもしれない。
戦争が終わったら、幸生とばあちゃんは再会してタイムカプセルを開けるはずだった。
その場所に、ハナミズキ。
もう、言葉にしようがなかった。
切なすぎる。
悲しすぎる。
胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
息を切らしながら、幸生とばあちゃんの約束の場所を探す。
その時、追いかけてきた悠に腕を掴まれた。
「ちづ!待てって!」
「悠も探してっ!」
「…ッ…ハナミズキの花が咲くのは4月から5月だ。もう花は咲いてない。
俺たちの周りにはこんなに木があるのに、どうやって探す?」
悔しそうに、悠は俯いた。