あの夏を生きた君へ
あたしはもう一つの、硝子の瓶にも手を伸ばした。
硝子の瓶は割れてしまっていて、中に紙が入っている。
紙はビショビショに濡れて、黄ばんでいた。
「破るなよ、慎重に。」
悠に言われて、あたしは注意深く紙を広げる。
でも、何も書かれていなかった。
ただの紙なのか、とも思ったが、
よくよく目を凝らしてみると何かが描かれている。
薄い。
本当に薄い線たちをじっと見つめていて、あたしはようやく気がついた。
「……ハナミズキ。」
幸生の話を思い出す。
幸生が、ばあちゃんのために描いたハナミズキの絵。
きっとそうだ。
破いて捨てたりなんかしなかったんだ。
あの日渡せなかった絵を、
再会してばあちゃんに渡すつもりだったのかな。
「幸生…。」
あぁ、もうやだ…。
大粒の涙が零れ落ちる。
あたしは絵をぎゅっと抱きしめた。