あの夏を生きた君へ
ふわり、と風が吹いた。
窓が開いているわけでもないのに優しい風を感じた。
あたしは顔を上げる。
幸生の声が、聞こえた気がした。
その時、握っていたばあちゃんの手が動いた。
指が、ピクリと動いたのだ。
「ばあちゃんっ!ばあちゃんっ!?」
慌てて呼びかけるけど何の反応もない。
あたしは手を放し、ばあちゃんの顔がちゃんと見えるように駆け寄った。
「ばあちゃん!!」
ばあちゃんの頬が、微かに動く。
お母さんが、
「お母さん!」
と、ばあちゃんに向かって言った。
皆、固唾を呑んで見守っている。
ばあちゃんは、あたしたちの呼びかけに答えるように、穏やかに微笑んだ。
「ばあちゃんっ!」
奇跡だ。
奇跡だと思った。
でも。