あの夏を生きた君へ
あたしが放したばあちゃんの手から、おはじきが床に落ちた。
弾けるように音を立てて落下すると、
ピーーーー…
という終わりを告げるかのような機械音が病室に鳴り響いた。
その瞬間、頭が真っ白になる。
「…ばあ…ちゃ…。」
医師が、ばあちゃんに触れる。
あたしは電池が切れた玩具みたいに立ち尽くしていた。
呆然と眺めていると、医師が首を横に振った。
「お母さん…。」
そう呟いて涙を流すお母さん。
お父さんも、叔母さんたちも泣いていた。
あたしの頭に、心に、空白が広がっていく。
あたしは泣かなかった。
ずっと、ずっと泣き続けて涙が枯れてしまったのか。
それとも、まだこの現実を受け入れられないのか、自分でも分からない。
あたしは、ばあちゃんの亡骸を見つめている。
俯くと、ひび割れたおはじきが床に散らばっていた。