あの夏を生きた君へ












車の窓ガラスから、流れる景色を見つめていた――。






「もう10年か…。」


「ん?何が?」


あたしはクスリと笑う。


「何でもない。久しぶりにこの町に来たからかな、昔のことを思い出したの。」


「昔のこと?」


「そう。ほら見て、あの制服とか。」



あたしが助手席の窓から示すと、

「あー!中学の制服!」

と、言いながら笑う。


「懐かしいでしょ?」




母校の制服に身を包んだ後輩たちが、街路樹の下を歩いてる。


まだ幼さの残る中学生に、あたしは思わず目を細めた。



あたしにも、同じ時代があった。


あれから、もう10年か。







< 275 / 287 >

この作品をシェア

pagetop