あの夏を生きた君へ
春。
空は透明に近いブルー、日曜日の昼下がり。
門をくぐり、車を停める。
赤い三角屋根、白い壁の二階建ての家。
広い庭にはたくさんの木々。
「これは何の木?」
「枇杷だよ。その向こうはザクロ。」
枇杷、ザクロ、と言われてもあたしにはピンとこなかった。
まるで植物園のようだ。
珍しげに辺りを見回していたあたしに、悠が言った。
「全部、ばあちゃんの趣味だよ。
じいちゃんが早くに亡くなって叔父さんたちと母さんを女手ひとつで育てて、色々なことが一段落ついてから始めたらしい。」