あの夏を生きた君へ






おばあ様は、この家に一人で住んでいるという。




時々やって来るらしいお手伝いさんに、リビングまで案内された。


リビングの壁には、たくさんの絵が掛けられている。


悠によると、絵もおばあ様の趣味だそうだ。


丸みを帯びた独特の線が印象的な絵は水彩画で、淡い色調の優しい絵だった。




大きな窓の向こうにハナミズキが見える。

風に揺れ、花びらがひらひらと舞っていた。
それは、まるで蝶のように美しい。






「よく来たねぇ。」



ハナミズキに気を取られていたあたしは、慌てて視線を移す。


悠のおばあ様は、ゆっくりとした足取りでソファーに腰を下ろした。


朗らかな笑顔、薄桃色のカーディガンがよく似合っている。





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