あの夏を生きた君へ
何気なく絵を眺めていたあたし。
恥ずかしそうに、おばあ様が言った。
「歪でしょう?」
「いえ、そんな!」
「まるで子供の絵みたいって自分で思うの。
何十年経っても、絵だけは利き手じゃないと無理みたい。」
すると悠が、
「ばあちゃんは不器用だしなぁ。」
と呟く。
あたしがきょとんとしていると、おばあ様は笑った。
「あら、気がつかなかった?」
そう言って、右腕の袖を捲る。
あたしは、ハッとした。
「もう、随分前よ。戦争で無くしたの。」
戦争で―――…。
「兄は絵が上手だったんだけど…あっ、それより貴方たちの報告って何なの?」
あたしは固まっていた。
「千鶴さん?」
おばあ様は首を傾げ、悠も不思議そうにあたしを見つめる。
まさか、と思った。
そんなはずないって。
――――でも。
「…あの、おばあ様。」
「何かしら?」
「お名前を、伺っても宜しいですか?」
おばあ様は優しく微笑んだ。
「私の名前は………。」