あの夏を生きた君へ





「また少し背が伸びたかい?」


「うーん、分かんない。」


そう答えると、
「ちづは健やかだねぇ。」
と、言って笑うばあちゃん。

ふふふっと可愛らしく笑う。


「健やかだねぇ」というのは、ばあちゃんの口癖だ。

でも、あたしは「健やかだねぇ」の意味が、いまいちよく分からないのだった。




「今日、夕飯食べてくよ。」


「はぁい。」


ばあちゃんは間延びした返事をしながら、しわしわの手で煙草を吸った。

もう80だというのにヘビースモーカーなばあちゃんを、あたしは気に入っている。



「そうだ、スイカでも切ってこようね。」


そう言って、ばあちゃんは銀色の灰皿の中で煙草を消して、立ち上がった。


腰が曲がっているせいか背が小さいばあちゃんだけど、歩く時はしゃかしゃかと歩く。

ばあちゃんは、ゆったりおっとりしてるのに意外とすばしこいのだ。




お母さんが変なことを言ってたから実は少し心配したけど、元気そうだったからホッとした。




切ってきてくれたスイカはよく冷えていて甘かった。

暑くて喉がカラカラだったから、あたしはスイカの美味しさに妙に感激してしまった。


ばあちゃんは、そんなあたしを見て嬉しそうに笑う。

あたしがよく食べて、よく眠って、よく遊ぶと、
ばあちゃんは嬉しいらしい。




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