あの夏を生きた君へ
その日の放課後。
あたしは偶然、教室にいた美季たちの会話を聞いた。
そこには愛美もいた。
「サイテーじゃね?」
「うん、彩織の気持ち考えろっつーの!」
教室に入ろうとしたあたしは足を止めた。
「幼なじみとか言いながら自分も好きなんじゃねぇ?」
「鏡見ろよって言いたくなるわ。あんな目つき悪くて図々しいよねぇ?彩織に勝てるわけねぇじゃん!」
ゾッとした。
足が竦んで動けない。
あたしの悪口を言う美季たちの声は楽しそうだった。
心臓をぎゅうっと握られているような息苦しさと圧迫感に襲われる。
彼女たちに見捨てられたら世界が終わってしまう、それくらいの感覚だった。
「ねぇ、愛美もそう思わない?千鶴ってさぁ裏切り者じゃない?」
美季が問いかける。
あたしは祈るような気持ちで愛美の答えを待った。
穏やかで、どちらかというと内気で、争いごとが苦手な愛美のことだ。
きっとフォローしてくれると信じていた。
しかし、あたしの期待はいとも簡単に打ち砕かれたんだ。
「…そうだね。」
それは紛れもなく愛美の声で、期待はあたしの心ごと粉々になった。
「ウザイよねぇ〜?」
「うん、ウザイ。」
死にたい。
すぅっと脳裏に浮かんだ言葉が、それだった。