あの夏を生きた君へ
けれど、その願いは届かなかったようだ。
高嶋と目が合ってしまった。
その瞬間、あたしの心臓は凍りついた。
素早く目を逸らしたが、高嶋の突き刺すような視線を感じる。
耐えられなくなって机に突っ伏すと、高嶋の大きな声が響いた。
「睨んでんじゃねぇよっ!ブス!!」
シンと静まり返る教室。
もう、顔を上げられない。
状況を把握するには耳だけが頼りだった。
けれど、聞こえてくるのはボソボソとした話し声。
絶対にあたしのことを言ってるんだ。
そう思うと、自分の呼吸が荒くなってくるのが分かる。
ガタガタと震えだしてしまいそうな身体を押さえ込んで、あたしはガムシャラに願った。
早くチャイムが鳴ってほしい。
早く、教室に先生が入ってきて。
やる気も熱意もないハゲ散らかした数学教師でもいないよりはマシだ。
だが、しかし、あたしの席へと近づいてくる大袈裟なくらい煩い足音は確実に高嶋、久保田のものだ。
それは、まるで死刑宣告のようだった。