あの夏を生きた君へ
窓の外は真っ暗だった。
病院の中も薄暗かった。
天井が高くて人気がなくて、静かだった。
消毒薬の匂いがする。
廊下に置かれた艶々の黒い長椅子に座って、あたしは足をぶらぶらとさせていた。
同じように向かいの長椅子に座っていたお父さんに「ちづ」と注意されて、仕方なく止める。
お父さんは腕を組んで、足を大きく開いて座っていた。
仏頂面。
お父さんはいつも仏頂面だ。
ガラガラと病室の扉が開いて、中から伯母さんが出てきた。
伯母さんは、お母さんのお姉さん。
だから、あたしにとっては伯母さんだ。
伯母さんは目の下を赤くしながら、涙を拭っていた。
その伯母さんを支えるようにして、伯母さんの旦那さんも一緒だ。
「あら、千鶴ちゃん?」
あたしは、ぺこりと小さく頭を下げる。
「しばらく見ない間に大きくなって…。ばあちゃんには会った?」
首を横に振る。
その時、病室の中からお母さんが顔を出した。
「ちづ。」
あたしを呼んで手招きする。
でも、あたしは中々立ち上がれなかった。