あの夏を生きた君へ





あたしの横を通り過ぎる時、真理子ちゃんが口を開いた。


「桐谷さん、先生待ってるからね。」



……何が?

いい歳して生徒の下ネタで顔真っ赤にしたり、
クラスで揉め事があると何も出来ねぇままオロオロしてるだけのテメェがよく言うよ。


「クラスの皆も待ってるからね。」



その言葉を聞いた瞬間、急激に気持ちが悪くなった。

皆も待ってる?

よく平然とそんな嘘を吐ける。

仲間外れの、余り者の、裏切り者のレッテル貼られてるあたしを一体誰が待ってるって?


テメェだって本当は分かってんじゃん。
何よりも、あたしが一番よく分かってる。

平気な顔して、そんなことが言えるって…逆にスゴいわ。





真理子ちゃんが帰ってからも、その場に立ち尽くしたままのあたしに、それまで黙っていたお父さんが言った。


「2学期からは学校行くよな?」


ついこの間、悠も同じようなことを言っていたのを思い出す。




「…行かねぇよ。」


「じゃあ、お前受験どうすんだ?」


お父さんは無愛想に言った。

何も言わないでいると、さらにぶっきらぼうな声が返ってくる。


「欠席ばっかになって受験どうすんだ?」





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