あの夏を生きた君へ
ぶらさがった裸電球に群がる蛾を視界の片隅に入れながら、サンダルで階段を駆けおりる。
外は真っ暗で、容赦ない雨が降っていた。
時々、空が光って雷が鳴る。
あたしは夢中だった。
立ち止まったら、何か得体の知れないものに足をすくわれてしまう気がした。
見たくない、聞きたくない現実が追いかけてくる。
抑えきれない感情に身を任せたまま、傘もささずに走った。
真上から降る雨と、ぬかるんだ道を踏みしめるサンダル、素足に跳ねる泥水。
もう、いいよ。
どうでもいいよ。
グチャグチャになればいい。
走りながら、あたしは狂ったみたいに声を上げて泣いた。
「うわぁぁぁ――…。」
叫び散らす絶叫、
雨音と雷鳴が掻き消してくれればいい。
また、雷が鳴った。