あの夏を生きた君へ
一度も立ち止まることなく走り続けた。
そのせいで、脇腹が痛い。
走り疲れて、やっと辿り着いた病院は、この間よりも更に暗かった。
人気がなくて、やっぱり静かだ。
ずぶ濡れの髪や服からポタポタと雨水が落ちて、廊下を点々と濡らしていく。
病院に来てからは、もっと一人ぼっちになった気がした。
暗がりにぼうっと浮かぶ自動販売機の明るさや、閉め忘れた窓から流れ込む雨の匂い。
あたしは心細かった。
涙はもう引っ込んでいたけど、ほとんど泣きだしてしまいそうだった。
空が光るたび派手に鳴る雷も、外から聞こえてくる激しい雨音にも、不安を掻き立てられる。
自然と足早になって、最終的には走っていた。
ばあちゃんの病室の前まで来ると、あたしは荒い呼吸のまま扉に手をかける。
ガラッと開けた瞬間、
目の前に広がる窓の向こうで、空がカメラのフラッシュのように強く光った。
あたしは反射的に、きつく目を瞑る。
そして、まるで爆発音のような雷鳴が響き渡った。
目を閉じたまま、耳を塞ぐ。
どこか近くに雷が落ちたのかもしれない、と思った。