あの夏を生きた君へ
雷は遠ざかっている気がしたが、豪雨はいつまで経っても変わらなかった。
雨音に耳を傾けながら、あたしはずっと彼の靴を見ていた。
ボロボロの靴は元の色が何色だったのかも分からないほど変色して赤茶けていた。
彼は、行儀良く足を揃えて座っている。
廊下に置かれた黒い長椅子に腰を下ろして、あたしはふっと気が抜けたような溜め息を吐いた。
病院の暗さには多少慣れたけど、少し離れた所にある自動販売機の明かりにはやっぱり救われる。
だから、あたしは自分が蛾になったような気がした。
団地の踊り場の裸電球に群がる蛾の一匹に。