あの夏を生きた君へ
「…ねぇ、何で?何で、あたしのこと知ってるの?」
恐る恐る尋ねると、彼は困ったような顔をした。
「それは…ずっと見てたから。」
「…は?え?」
「ちづが知らないのは当然だ。
でも、僕はずっと見てた。
ちづが生まれた日のことも、よく覚えてる。恵が生まれた日のことも。」
……この人、頭可笑しいの?つーか、マジでヤバい奴?
もう何を言っていいか分からなくて困惑しているあたしに、真面目な顔をして彼は言う。
「それにしても驚いたな。」
「…え?」
「ちづに僕の姿が見えるとは。驚いた。」
それから嬉しそうに笑った。
「夢みたいだ。」
あぁ、もう無理だ。
そう思った。
あたしは何一つついていけないし、だんだんとこんな変な奴と話してることがバカらしくなってきた。
だって、ぜったい頭可笑しいじゃん、この人。
溜め息を落として、あたしは目を閉じた。
腕を組んで俯く。
雨、早く止んでくれないかな。
「…あまり恵に心配かけるな?」
彼の声はちゃんと耳に届いていたけど、あたしはもう無視した。