あの夏を生きた君へ





気づくと、窓から陽の光が差し込んでいる。


いつの間に寝てしまったんだろう。
雨は上がっていた。


病院の椅子の上で眠っていたせいか、身体が痛かった。

腕を伸ばしながら、あたしは思う。



あれは夢だったのか?

目覚めると、彼の姿は消えていたからだ。




もしかしたら、と思ってばあちゃんの病室の扉を開けてみたけど、やっぱり彼はいなかった。

ただ、眠ったままのばあちゃんがいるだけ。


「…やっぱり夢か。」



それにしても、いやに鮮明な、はっきりとした夢だったような気がする。

「…変な夢。」




ぼそっと独り言を呟いた直後、あたしはハッとした。




残っていたからだ。

あの、物が燃えたあとのような、鼻をつく焦げ臭い匂いが。


……全部、夢じゃなかった。
確かに、彼はここにいたんだ。




それは、何だか不思議な気分だった。

現実だと思うと余計に。

夢ならまだ理解できるのに現実だったなんて。






だとしたら、彼は結局何だったんだろう。


あたしはすっかり途方に暮れる。




いくつもの疑問とモヤモヤした気持ちを抱えたまま、病院を後にした。








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