あの夏を生きた君へ
それは、とても古い写真のようだった。
白黒の写真だと思うが、色褪せてセピア色に近くなり、
端端は小さく破れていたりする。
写っているのは二人。
一人は、結婚写真よりも更に若い時のばあちゃん。
もんぺ姿におかっぱ頭だ。
そして、その隣に佇んでいるのは、アイツだった。
昨夜、あたしはばあちゃんの病室で彼に会った、確かに。
写真で見る彼と、あたしが見た彼は姿形が全く同じ。
坊主頭で、繊細な顔つきで、ガラス玉みたいな瞳で。
写真の中のばあちゃんと彼は、木々に囲まれた森の中のような所にいる。
二人とも直立不動で立っていて、二人の間には花を咲かせた一本の木。
食い入るように写真を見つめていると、お母さんの声が降ってきた。
「あ〜疲れた!」
汗だくになったお母さんは、両手いっぱいに真っ赤に熟したトマトを抱えていた。
それを縁側に置くと、「う〜ん」と伸びをする。
「ばあちゃんがいない間にこんなに出来ちゃったのよ。しばらくはトマト三昧ね。」
「…お母さん。」
「ん?」
「…この写真って…。」
あたしは手にしていた写真をお母さんに見せる。
するとお母さんは、
「あぁ〜うわぁ、懐かしい!」
と、言って笑う。