あの夏を生きた君へ
風に踊るカーテン、
焦げ臭い匂いが部屋を満たしていく。
まるで金魚のように口をパクパクとさせてるあたしなんてお構いなしの彼は、ただただ無表情。
そのガラス玉みたいな目で、黙ってばあちゃんを見つめていた。
本当にいる。
ここにいる。
夢なんかじゃない。
写真と同じままの、彼がいるのだ。
「あの…。」
あたしの口から出た声は蚊の鳴くような声だったけど、彼はあたしに視線を向けた。
その真っすぐすぎる眼差しに、たじろいでしまう。
後退りすると、あたしの足は椅子にぶつかり、カタンと小さな音を立てた。
「明子が心配か?」
顔を上げると、その瞳はあたしを捉えたままだった。
「大丈夫だ。連れていったりしないから。その時が来るまでは。」
「…その時って?」
月光に照らされた彼は、ちゃんと呼吸をしていて、ちゃんと皮膚もあって足もある。
半透明だとか、足がないとか、そういう幽霊らしさはどこにもなかった。
そして、あたしの頭にばあちゃんの言葉が浮かんだ。
「…ばあちゃんを迎えに来たの?」
彼は何も言わない。