あの夏を生きた君へ
「違うよ。」
彼はゆっくりと言った。
ゆっくりと、ちゃんとあたしに理解させるように。
「僕は待ってるんだ。その時が来るのを。その時が来たら明子を連れていく。」
「…その時って…いつなの?」
瞳から零れ落ちてしまった雫が、あたしの頬を流れていった。
「それは僕にも分からない。
僕に許されているのは、見ていることと、待つことだけなんだ。」
見ていることと、待つこと?
何だか気が抜けて、あたしはストンと椅子に腰を下ろす。
「…約束は、二人で埋めた宝物のことだ。」
宝物…ばあちゃんも話してくれたタイムカプセルのことだ。
「必ずまた会おう、その時に開けよう。そう約束した。
でも守れなかった。」
彼は目を閉じて悔しそうに顔を歪ませる。
幽霊…のクセに人間臭くて調子が狂ってしまう。