あの夏を生きた君へ





「ちづ?」


彼が心配そうにあたしを見る。

でも無理だ。
いま話す余裕なんてない。


身体が全部心臓になってしまったような大きな鼓動、額には冷や汗。




ガサッ!ササササッ!!




恐怖に侵されていく、あたし。


だから嫌だったんだ、こんなとこ来るの!


身を固くして、震える手で懐中電灯を向けた。



光が照らすのは、ジャングルのように生え散らかした草。
空に向かって高々と伸びる木々。



そして次の瞬間、草が「ザザザッ!」と鳴ったかと思えば、姿を見せたのは泥だらけの三毛猫だった。

猫は「ニャー!」と鳴いて、素早く草むらの中へ消えていく。



あたしは緊張から解放されたのと安堵で、その場に座り込んでしまう。



「猫…かよ…。」


あたしの様子にきょとんとしていた彼と視線がぶつかる。

あたしは急に恥ずかしくなった。
同時によく分からないけど腹が立つ。


「悪い!?」


「え?」


「ムカつく!何でこんな山!?何で神社!?よりにもよって…!空気読めよっ!!」


激しくキレるあたしと、
訳が分からないといった表情の彼。






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