Addict -中毒-
「何言って……」
蒼介のグラスの中のビールは残り3分の1ぐらいまで減っていた。
「少し酔っ払ったみたいだ。ごめん、片付けてくれる?もう寝るよ」
蒼介はいつもの調子に戻ってぎこちなく笑うと、席を立ち上がった。
そのままスリッパを鳴らして寝室に消えていく。
私は黙って彼の華奢な後ろ姿を見送った。
私の中で、また一抹の不安が浮かび上がる。
彼は何か気付いているのかしら。
そうだとしたら、どうして私に何も言わないの?どうして怒らないの?
ダイニングチェアに腰掛け、あれこれ考えても結局明確な答えは出てこず、私は諦めてシャワーを浴びた。
シャワーを浴び終え、照明を落としたリビングのソファに腰掛けると私は左手を宙にかざした。
暗い夜の闇に包まれた部屋で、左手薬指のリングが妖しく光った。
彼の―――啓人の熱い掌の感触をふっと思い出し、私は慌てて首を振った。
首を捻った先で、視界の端に月下美人の入った茶色の小瓶が映る。
久しぶりに―――
飲んでみたい気分になった。
私は例の如くロックグラスに氷を入れ、その中の焼酎を注ぎいれた。
啓人の連れていってくれたあのお店のように芳醇でまろやかなこくはなかったけれど、これはこれでおいしい。
ふぅと吐息をつき、私はソファの背もたれに深く背を預けた。
その指先に何かが触れる。
私が脱いだ筈のトレンチコートの裾だった。