Addict -中毒-
「で、どうだったの??」
萌羽がワクワクしたように目を輝かせて身を乗り出した。
高級ラウンジの、アンティーク風のソファ椅子が、ぎしりと年代ものの音を立てた。
「どうって…?」
私は萌羽の気迫に体を後退させながらも上目遣いで聞いた。
「決まってるじゃない!寝たんでしょ!」
「大きな声で言わないでちょうだい」私は慌てて回りをきょろきょろと振り返ったが、それぞれの客は自分たちの会話に夢中で誰も私たちの方に聞き耳を立てている様子がなかった。
後ろめたいことをした後ってのは、どうしてこうも周りが気になるのだろう。
私は気を取り直して紅茶のカップに手を添えると、
「寝てないわよ。飲んでさよならだったわ」とさらりと答えた。
「うっそ。誘われなかったの?」
萌羽は「信じられない!」という表情を浮かべた。
『店に行くよりホテルへ連れ込みたい気分だぜ』
啓人の言葉を思い出し、
あれは誘われた部類に入るのかしら。とちょっと首を捻った。
冗談とも本気ともつかない軽い口調。
いや、半分以上は………いえ、8割方は冗談ね。
でもあれは……
「俺ね、好物はあとにとっておくたちなの。だから今は急がない」
「欲しいものは全力で奪う。それがたとえ人のものでもね」
120%の本気だったに
違いない。