Addict -中毒-
「なんだ~何かあったのか期待してたのにぃ」と萌羽はつまらなさそうに唇を尖らせている。
何かあったらいけないのよ。
彼に抱かれたら、私はきっと引き返せない。
未来のない夢を見るほど私もバカじゃない。
だけど
彼の熱が籠った視線からは逃れられられない。彼の力強い腕を振りほどけない。
まるで中毒患者のように
私は彼のことをずっと考えている。
そう―――どうしようもないほど彼に溺れて、淡い夢を見たいと思う自分が確かに存在していたのだ。
「ところであんたの方はどうなのよ」
私は長い付き合いだと言うのに、萌羽に男の影を見たことがない。
お客とも深い関係になったことは―――一度もなさそうだった。
「つまらない男に時間とお金を掛けるのは無駄なことよ。私は大物を一本釣りするの」
萌羽は楽しそうに笑った。
「大物…ねぇ。それって神流グループの御曹司ってこと?」
「そ。狙うは玉の輿♪」
「まだ会ったことすらないのに、よくそこまで夢見れるわね。どうしようもないダメ男だったらどうするのよ」
呆れて肩を竦めると、萌羽はにんまり笑った。
「それがねぇ見たのよ♪」
「見た…って、その御曹司を?お店に来たの??」
「ううん。広尾にあるオフィスの前で偶然。神流会長とご一緒のところだったわ」
萌羽の反応から察するに、御曹司は相当なルックスに違いない。
「背が高くて…180㎝以上あるかしら。爽やかなイケメンだったわ。仕事もまあまあデキそうではあった」
見るからに高そうなスーツを着てて
と萌羽は続けて、
「思ったより若かったわ。23~5ってとこ」と付け加えた。