Addict -中毒-
蒼介の着替えをクローゼットの中から出してボストンバッグに詰め込んでいると、寝室の扉がキィと奇妙な音を立てて開いた。
ぎくりとして入り口に目を向けると、相澤が表情のない顔で突っ立ていた。
「ちょっと。ここは寝室よ。勝手に入らないでちょうだい」
私が声を荒げると、相澤は怯んだ様子も見せずに、下卑た笑みを漏らして私の方まで歩み寄ってきた。
「先生が居ない間に若い男を連れ込むとは、奥さんも大胆な人ですね」
「連れ込んだわけじゃないわ。外商員だって言ったでしょう?」
私の背中をひやりと冷たい何かが伝った。
全身に鳥肌が立って緊張がつま先から這い上がってくるのを感じる。
「ただの……」
相澤は口を開いた。音のない静かな部屋にその言葉はやけにはっきりと聞こえた。
相澤の唇は醜く歪んでいる。
「ただの外商員があんな高級な外車に乗るんでしょうか?」
相澤は意地悪く笑った。
そのとき初めて私は啓人の車が、家の前に停めたままになっていたことを思い出す。
迂闊だった。
「誰が何を乗ろうと勝手でしょう?彼の経済状況がどうなってるのかなんて私に分かるわけないじゃない」
本当のことだ。
私は彼の名前と年齢ぐらいしか知らない。
だけど私の反論にも相澤は笑って流した。
低い笑い声が寝室に響いて、私の中の嫌な予想が蒼介にバレる、というものから、
違う危険を感じ取っていた。