Addict -中毒-
その日は朝から雨だった。
あまり大きくはないけれど、台風が関東地方に接近しているということで、この頃一気に冷え込むようになった気温がさらに低く、
本格的に冬支度をはじめようとしている薄暗い空をより一層暗く、どんよりと圧迫していた。
「いつまで降るのかしら。やぁね」
独り言を漏らしながらも、私は夕飯の支度に取り掛かっていた。
今日は蒼介が帰ってくる、と聞かされていたから彼の好きなカレイの煮付けを作っている最中だった。
何もこんな日に帰ってこなくても。
なんて蒼介に言うと、
「台風が近づいてるでしょ?紫利ちゃんに心細い思いさせたくないから」
なんて蒼介にしては珍しく、男っぽい台詞が返ってきた。
言い慣れてないのか、言葉の語尾が変な風に裏返ったことを私は笑った。
それでも―――
私は蒼介の言葉が嬉しかった。
毎日台風が来てくれないかしら?
そうしたら蒼介は私の傍に居てくれるわよね。
そうしたら
啓人のことは自然に忘れられる―――
そう思っていた矢先だった。