Addict -中毒-
啓人らしい―――
私だって彼のことをよく知らない。
私が知ってる彼は―――いつも明るくて、チャラいけど、本当は優しくて……
でもきっと怖いオトコ―――
彼の質問に、どうやって答えていいのか分からず私は携帯を握ったまま、何も返せなかった。
すると彼は喉の奥で小さく笑い、
『わり。かっこワリぃこと言っちまった。気にしないで。じゃね』
啓人は電話を切ろうとする。
どうやら本当に大した用はないみたいだ。
「待って!」
その彼に向かって、私は自分でも驚くほど大きな声を出していた。
一旦離そうとした電話を、耳に近づける音が聞こえ、ほっとした。
「ねぇどうしたの?あなた変よ。今はどこに居るの?」
『どこって……聞いてどうするのサ』
彼はいつもの調子でちょっと笑う。
私が答えを言いよどんでいると、
『聞いたら会ってくれる?』
と、静かだけど―――どこか抑揚を欠いた声が、そう言った。
ドキン
私の心臓がまたもよじれそうになるほど痛みを発する。
胸を押さえながら、それでも数秒間迷った。
時計を見ると、夜の19時過ぎを差している。
蒼介が帰ってくる予定の30分前だ。
そしてキッチンのコンロに乗っている鍋に視線を移し、意味もなくリビングの向こう側にある洋間に目を向けた。
そこは以前―――
啓人がグランドピアノに向き合っていた部屋だった。