Addict -中毒-
その夜は眠れなかった。
明日のパーティーに気分が昂揚してるから、とかじゃなくて、目を閉じても啓人の顔が浮かんでくるから。
無理やり消そうと思っても、まるで意地悪をするように彼の笑顔が鮮明に浮かんでくる。
何度も身じろぎして―――結局、眠りについたのは明け方だった。
寝不足のまま萌羽が迎えに来て、そのまま昨日のスケジュール通りあちこちへ引っ張り回される。
ネイルサロンで指先を飾ってもらい、美容院に行って髪をセットしてもらう。
二人して家に着いたのは15:30。
一息付く間もなく、着替えに入りメイクを施す。
寝不足のせいか、若干肌が荒れてるようだった。ファンデのノリが悪くて、私は吐息をついた。
それでも長年の経験を生かして、なんとか肌荒れをごまかし化粧を終えると、16時半。
少し胸元が開いた黒いタイトドレスに身を包んだ萌羽は―――
いつも綺麗で魅力的だけれど、今日はそれにさらに妖艶さが増し、美しかった。
「綺麗ね。ジュニアもイチコロじゃない?」わざと茶化して言うと、萌羽はくすぐったそうにはにかんだ。
「アキヨなんかに負けないわよ!」と意気込みを聞きながら私はタクシーを拾った。
タクシーのドライバーは私たちを見て、少し興味深そうな視線を投げかけてきたが、私たちが乗り込むと、始終黙ったまま口を開くことはなかった。
神奈川県の藤沢まで普通に行けば40分程度。
多少の渋滞があっても充分間に合う時間帯だ。
ゆらゆらと心地良い揺れに身を任せて、私はほんの少し目を閉じた。
眠りの気配があったけれど、
啓人のことを極力考えないよう、私は今日のパーティーのシュミレーションをして、いつしか眠りに入っていた。