Addict -中毒-
あれは夢よ―――
だって私は啓人とあんな廊下を走ったことなんてない。
願望―――…?それにしちゃ変な希望だけど……
だけど、夢に理由を求めるのは間違っている。
啓人のことを考えないように、考えないように……って思ってたけれど、本当は心のどこかで会いたいと願っていたのが、現れたのか……
夢でも―――会えて……
嬉しかった。
――――
藤沢の郊外にあるホテルはまるで西洋のお城のように立派で美しいものだった。
敷地の中央には丸い噴水があって、いつかラスベガスで見た高級ホテルの噴水を思い出す。
4階建ての白い建物は天井が高く、二階部分にはバルコニーまである。まるで舞踏会ができそうなお城のようだ。
神流会長は、このホテルを一軒まるまる貸切りにしたようだ。
私たちの他にも、正装した男女が出入り口の辺りで話しこんでいる。
「藤枝様と、三波(ミナミ)様ですね。お待ち申し上げておりました」丁寧で上品なホテルマンが出迎えてくれて、私たちの名前を確認すると、彼は私たちをホテルの中に案内してくれた。
「月香―――お久しぶりね!それに萌羽も。待っていたわ」
すぐにマダム・バタフライのママが出迎えてくれた。
彼女も京友禅の色留袖。黒い生地に金の刺繍が何とも華やかで上品だ。
「ママ。今日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
挨拶を述べると、
「こちらこそ宜しくね」とにっこり笑顔を浮かべたものの、すぐに表情を引き締めた。