Addict -中毒-
「でもお誕生日に誰も部屋に呼ぶ女は居ないの?私だって最初は予定に入れてなかったんでしょ?」
ちょっと目を上げて聞くと、啓人は淡い笑みを浮かべた。
「誕生日ぐらい、ゆっくりしたいじゃん。仕事も、女も―――全部絶って、俺だけの時間が欲しかったんだ」
だから携帯も切ってる。
そう言い置いて、啓人は電源の落ちた携帯をベッドに放り投げた。
私はちょっと上体を起こし起き上がると、苦笑しながら彼を見上げた。
「なるほどね。あんたが誰も部屋に呼ばなかったことが分かったわ。だけどそれじゃ、尚更私が居るわけにもいかないじゃない」
言ってて少しだけ悲しくなった。
そんな表情を悟られないために、顔を僅かに逸らす。
啓人の重荷になるわけには行かない。大人の…それも不倫と言う不道徳な行動こそ、数え切れないルールが存在する。
わがままはダメ。嫉妬するのもダメ。
恋愛する上で当たり前の感情が―――彼の前では全てルール違反なのだ。
だけど急に腕を引かれて、私はまたもベッドに逆戻り。
啓人が私の腕をベッドに貼り付けて、上から覗き込んできた。
「最初は一人で過ごすつもりだった。
今日紫利さんと会うまでは。
会えるなんて思ってなかったし、半分諦めてた。だって着拒だぜ?
完全に嫌われたと思ってたから。
だけどやっぱ会うと―――
らしくないけど、運命とか?そんなこと思っちゃって。
誕生日だからか?特別感みたいな…とにかく
何だかんだ言うけど、ようは
紫利さんがほしくなった。
ってこと。
今日一緒に過ごしてくれることが―――あなたからの誕生日プレゼントだ」
啓人は―――大人の男なのに、まるで子供のようなことを言う。
だけど私はそんな素直な啓人が好きで、そして同時にそう言ってもらえたことが
嬉しかった。