Addict -中毒-
私たちがこうしてこのエレベーターホールに居て一体どれだけエレベーターの昇降を見送っただろう。
幸いにも、バーから帰る客も居なければ、このバーに立ち寄る客も居なかった。
今度こそ私は下へ降りるボタンを押した。
さっきのじりじりとした苛立ちはなかった。
すぐにエレベーターが来たからだ。
「さよなら。ぼーや」
最後に、私は振り返り精一杯の虚勢を張って見せた。
顔に笑顔を浮かべる。
彼も余裕の笑みを返してきた。
「またね。だろ?」
その笑顔にまたも苛立ちを感じ、
私は駆け引きの最後のカードを見せるべく、挑発的に彼に笑いかけた。
「またね。ケイト」
エレベーターの扉が閉まる瞬間、彼は驚いたように目を見張った。
ほんの少しだけ勝利の味に酔いしれる。
だけど扉が閉まる瞬間に見た
彼の真っ白なワイシャツが目の裏に焼きついている。
それと同じだけきれいな笑顔を浮かべて、
彼が私を見つめていたから。
視界いっぱいに広がった鮮やかなまでの白さが、私をまたも平静ではいられなくさせた。