Addict -中毒-
私が外ばかり向いているのが気になったのか、赤信号で停車したときに啓人の手のひらが私の膝の上に乗せられた。
雰囲気作りをしようとしているのかしら。
でもそうされると、どんどんと心が冷めていく。
あの通りを彩るLED電飾のように、青と白の冷たい色に―――染まっていく。
前は触れられる度にドキドキしていたのに、今はそれすらもこの後の行動を示しているように思えて、何だか急に彼の熱い手のひらを疎ましく思った。
私は―――
彼とクリスマスも一緒に過ごせない。彼にとってはいっときの、
かりそめの恋人に過ぎない。
そんな現実が突き刺さる。
「どうしたの?テンション下がった?」
そう聞かれて、私はぎこちなく首を振った。
否定の意味で首を振ったわけだけど、啓人には私の微妙な心の変化が伝わったのか、ちょっと吐息をついて手が遠のいていった。
運転席の啓人をちらりと見ると、通りを彩るイルミネーションが反射して、彼の横顔を青白く照らし出し、その顔には表情が浮かんでいなかった。
呆れられた?
―――あなたはそのつもりであれこれしてきて、いつもよりめかしこんで、いそいそと出かけてきたってわけなのに、
今更それはないだろ?
そう思われたのかもしれない。
だけど啓人は私の考えとは反して、
「疲れた?俺、結構自分の都合で振り回してたかも。
ごめん
これ聴いて癒されて♪」
次に私の方を振り返ったときはiPodを持って、にっこりいつもの―――
私の大好きな笑顔を、浮かべていた。
その笑顔を見て、何故だかすごく安心した。
ごめん―――だなんて……
そんな風に不意打ちに謝らないでよ。私は啓人がどうゆう男か知ってて、それでもついていこうと自分が選択したのに。
ごめん―――は、私の方よ。
そして自分が「呆れられた」と言う想像に、思いのほか不安だったことも
同時に気付かされた。