Addict -中毒-
普通に聞いたら随分嬉しいことを言ってくれる。と、本当に勘違いしそうになる。
でも
啓人は知ってる。勘違いしていても、それを表に出さないのが私だと―――
何だかんだで私が家庭を捨てないことを―――
知ってるから、こんなこと言えるのよね、きっと。
ズルい男。
でも結局、私は啓人にとって都合の良い女であることは間違いない。
だってクリスマスイブを誘ってもらえて、嬉しかったから。
自分に呆れながらも
「いいわ」と頷こうとしたときだった。
まだYesもNoも伝えていないとき。
窓の外でヘッドライトが輝いた。
庭と隣接している駐車場に蒼介の軽自動車がゆっくりとした動きで方向転換してバック駐車をしている。
薔薇の花を描いた見事なゴブラン織りの厚手のカーテンは開かれていて、そのカーテンを閉めていればその気配に気付かなかったに違いない。
「…ごめん、啓人。旦那が帰ってきたの」
今日は帰ってくる予定じゃなかったのに……
私は早口に言って送話口に手を当てると、
『24日。赤坂のバー、カレーシュって店で待ってるから』
私の返事を聞かずして、啓人の通話は一方的に切れた。
ツーツー……
一方で空しい器械音を聞きながら、
一方では「ただいま」
と蒼介の声を耳に入れる。
「どうして?」
私は一体どちらに対してこの言葉を呟いたのだろう。