Addict -中毒-


―――


「びっくりしたわ蒼ちゃん。帰ってくるなら連絡入れてよ。そうしたらもっとごちそう作ったのに」


私は急いで作ったナスの肉味噌炒めを口に入れて恨みがましく蒼介をちょっと睨んだ。


「充分ごちそうだよ。毎晩コンビニの味気ない弁当ってのもね。紫利ちゃんの料理が恋しくなったんだ」


蒼介はさっき作っていたほうれん草のおひたしに箸を伸ばしながら苦笑い。


「栄養偏るし、言ってくれればお弁当作って持っていくってのに」


「いや、それはさすがに申し訳ないし」


蒼介はちょっと恥ずかしそうに笑ってお茶の入った湯飲みに口を付ける。


でも思い直したのか、湯飲みを遠ざけるとふと目を伏せて悲しそうに口元に笑みを浮かべる。





「お弁当持ってきてくれたら、そりゃ嬉しいけど。僕が家に帰る理由がなくなっちゃうかと思って」




蒼介―――……




「何言ってるのよ。ここは蒼ちゃんの家でもあるのよ。理由なんてなくても


“ただいま”って帰ってこられるじゃない」


私はわざと明るく言って蒼介の手に自分の手を重ねた。


私は―――彼の前でいっときと言え良い“妻”を演じられているかしら。


いずれ決着を付けるにしろ、この手を自ら手放すことを考えると心がズキリと痛んだ。




私はこの心優しい人を―――裏切っている。





蒼介はほっそりと青白い手で私の手を握り返してきた。


その手付きは弱々しくて、体温が低い指先だった。





啓人とは全然違う―――……





そんなことを考えて蒼介の手に視線を落としていると、






「紫利ちゃん。今年の24日クリスマスイブは一緒に過ごさないかい?」





蒼介が突然聞いてきた。






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