Addict -中毒-
24日―――……
ドキリとした。
蒼介が私と啓人が24日に約束しようとしていたことを知る筈がないのに。
でもつい今しがたそうゆう会話をしていたから―――
まさか盗聴器でも隠してあるのかしら。一瞬そう疑ったが、蒼介がそんな無粋な真似をする人ではないことを分かっている。
私は顔に動揺が出ないようにわざと明るく笑った。
「どうしたの?カレンダーには“休”の印が打ってないからてっきり研究室勤めかと思ったけれど」
「その日の夜だけ帰ってこようかと思って。せっかくクリスマスイブだし。
……僕がクリスマスとかガラじゃないけど」
蒼介は恥ずかしそうにちょっと笑った。
青白い顔に無理やりと言った感じで笑顔を貼り付けている。
「紫利ちゃんには、普段寂しい想いをさせてるかと思って。
こんなときぐらい、二人きりで過ごすのもいいかと思ったんだ」
どうして帰ってこようと思ったのかしら。
どうしてその日なのかしら。
いいえ、問いただす私が間違っている。
―――だって私達は夫婦だもの。
至極当たり前のことじゃない。
「じゃあごちそう用意するわね。あとプレゼントも。はじめてね。ゆっくりとクリスマスイブを過ごすのは」
私は明るく笑って蒼介の手から手を離した。
蒼介は名残惜しそうにしばらくの間、抜けていった私の指先を目で追っていたけれど、やがてはその手をゆっくりと引っ込めた。
「今から楽しみだ」
楽しみだ、と言った蒼介の顔はちっとも楽しそうじゃなくて、
目を伏せてぎこちなく口元に笑みを浮かべている様子は
やっぱりどこか無理をしているように
思えた。