Addict -中毒-




ぼんやりと大使館の建物を眺めながら歩いていると、


肩と肩が触れ合って……でも、ぶつかると言う大げさなものじゃなかった。


だけど、私もぶつかった相手もお互いぼんやりしていたのか、二人して一歩退いて慌てて前を向いた。


私よりも背が低くて、華奢な若い女性だった。ヒールを履いているから本来の背はもっと低いのか。


真っ白なコートに身を包み、襟元や袖にふわふわのファーをあしらってある。


その白いコートが彼女に良く合っていた。


「すみません」


小柄な彼女が慌てて頭を下げる。


「いえ、こちらこそ」


随分と可愛らしい顔立ちをしているにの、表情に乏しいと言うか、あまり感情を感じ取れない感じはした。


だからかしら。どこか人形っぽく感じたのは。


精巧な造りの人形。


栗色の長い髪の毛先は僅かに巻いてあって、風に揺れるとよりその髪型がより際立って見られた。


啓人が好きそうな―――女性だ。


白いコートがとても良く似合う。


私が着ていたのは彼女と似たタイプの黒いコート。


大使館のガラス窓に映った私達の姿は





まるで白と黒の鍵盤―――





ピアノのそれに思えた。







< 289 / 383 >

この作品をシェア

pagetop