Addict -中毒-
ぼんやりと大使館の建物を眺めながら歩いていると、
肩と肩が触れ合って……でも、ぶつかると言う大げさなものじゃなかった。
だけど、私もぶつかった相手もお互いぼんやりしていたのか、二人して一歩退いて慌てて前を向いた。
私よりも背が低くて、華奢な若い女性だった。ヒールを履いているから本来の背はもっと低いのか。
真っ白なコートに身を包み、襟元や袖にふわふわのファーをあしらってある。
その白いコートが彼女に良く合っていた。
「すみません」
小柄な彼女が慌てて頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
随分と可愛らしい顔立ちをしているにの、表情に乏しいと言うか、あまり感情を感じ取れない感じはした。
だからかしら。どこか人形っぽく感じたのは。
精巧な造りの人形。
栗色の長い髪の毛先は僅かに巻いてあって、風に揺れるとよりその髪型がより際立って見られた。
啓人が好きそうな―――女性だ。
白いコートがとても良く似合う。
私が着ていたのは彼女と似たタイプの黒いコート。
大使館のガラス窓に映った私達の姿は
まるで白と黒の鍵盤―――
ピアノのそれに思えた。