Addict -中毒-




「Miss Kashiwagi! It's your thing left behind.
(カシワギさん!忘れ物ですよ)」


私の前から米国大使館の職員なのだろうか、スーツ姿の若いアメリカ人男性が書類の一枚を掲げて走ってくる。


「Oh…Thanks.An oversight on my part.
(あら、ありがとうございます。うっかりしていました)」


通訳か何かの仕事だろうか。彼女の受け答えは昨日今日の英語ではなかった。


その話し方から知的な感じも受けられる。


私はまだ二三会話をしている彼女に今度こそ背を向け、歩き出した。




―――…これを嫌な予感って言うのかしら。


胸の中がザワザワしていて、調律の狂った不快な和音が私の内側で旋律を成している。



嫌な嫌な―――予感…



―――「…様、お客様」


女性店員の声にはっとなった。


慌てて顔を上げると、


「こちらでよろしいでしょうか?」と洒落た包装紙で綺麗に包まれた箱を目の前で見せてくれた。


銀座の老舗百貨店。メンズブランドの洋服売り場で私はマフラーを買った。



蒼介への



クリスマスプレゼントだ。



「ええ、ありがとう」


何とか頷いて、その箱を受け取るときだった。


「―――姉さん……?」


たまたま店に前を通りかかったのだろう。





店の前で―――萌羽が




呆然と目を開いて立ち尽くしていた。







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